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Special Interview: 第10回特別編 パトリス・ルコントインタビュー

第10回特別編 パトリス・ルコントインタビュー

さて、最後は特別編。髙橋剣さんと衣川くるみさんのご厚意により、フランスを代表する映画監督で世界的な巨匠パトリス・ルコントにインタビューをすることができました。彼の作品はぼく自身大好きで「仕立て屋の恋」「髪結いの亭主」は20年ほど前に初めて見て以来、何度も見返してきた作品でした。そんな世界的に有名な監督であるにもかかわらず、実際にお会いした印象はとても気さくでユーモアがあり、人懐こいジェントルマンでした。
われわれのような小さなメディアのインタビューにもかかわらず、質問にまったくイヤな顔ひとつせず、ひとつひとつとても丁寧に答えていただき「あなたのファンだ」というと気軽にサインや京都府のキャラクターまゆまろくんとの写真撮影にも応じてくれて、ほんとうに感激しました。
そんなわけで、まずは「ENJOY KYOTO」の概要を“あの”パトリス・ルコントに説明するという、20年前の自分にはちょっと想像もつかなかったプレゼンをサラッと経験したあと、いよいよインタビューが始まりました。

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松島 こんにちは。今日はよろしくお願いします。

パトリス・ルコント こんにちは。こちらこそ。

松島 監督はこれまでにも京都にいらしたことはありますか?

パトリス・ルコント えーっと日本にはもう15回ほど来ているのですが、京都はずいぶん前にいちど来たきりで今回で2度目なんです。

松島 じゃあ京都の印象というのはまだあまりない?

パトリス・ルコント いえ、もちろんイメージはありますよ。お寺、伝統的な木造家屋などなど。でも伝統的なものをたくさん見たうえで、私は逆に日本の現代的なところが好きなんだとわかりました。これはべつにアイロニカルに言っているわけではなく、です。どちらかというと日本の先進的なところにすごく惹かれます。

松島 それはとてもおもしろいオリジナルな視点ですね。

パトリス・ルコント ぼくはとてもオリジナルな人間だからね(笑)。

松島 監督はもともとアニメや漫画を勉強されていたと伺いましたが、日本の漫画で好きなものはありますか?

パトリス・ルコント いくつかは知っていますよ。名前まではわからないんですけどね。ただ、困惑するのはどうも漫画家個人のスタイルがあまり感じられなくて、みんなおんなじに見えてしまうんです。どの漫画家も共通のグラフィズムを持っているのかもしれない。これはあくまで推測ですが、読者が好きなものや読者の期待に応えようとしてそうなっているのかもしれませんね。

松島 さて、では今回の映画「暮れ逢い」についてお聞きします。

パトリス・ルコント ぼくはずっと漫画の話でもいいですよ(笑)。

松島 いや、それじゃインタビューにならないので(笑)。

パトリス・ルコント では、どうぞ。

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松島 はい。今回ツヴァイクの小説を映画化しようとした理由や動機はなんだったんですか?

パトリス・ルコント まずツヴァイクが小説の中で描いている感情が、自分がふだんから抱いている感情とすごくフィットしたからです。やはり原作のある作品を映画化しようというときにはそれを読んでいる自分にとって心地よさがあるというのはとても大事なファクターです。この小説に出てくる登場人物に強く自己投影できるところがあったからこそ映画化しようと思ったわけなんです。

松島 もう少し具体的にいうと?

パトリス・ルコント たとえばフレドリックの場合は狂おしいほどの恋心を抱きながらそれを自分の心に秘めておかなければならない。そういう許されぬ恋をしながらそれを他人に知られてはならない、しかも相手が自分のことをどう思っているか確信が持てない、そういう状況やその時の気持ちにすごく心が動かされたのです。

松島 監督もやはりそういう恋を?

パトリス・ルコント もちろんです!しょっちゅうですよ(笑)。もちろんこの映画の場合は1912年から始まるという具合に時代設定は明確に決められていますけれども、彼らが抱いている恋心はいまの時代にとってもアクチュアルなものであって、これはすでに過去のものだなどということは全然言えないと思います。まあ彼らの恋の仕方にはややロマンチシズムなところがあるかとは思いますが、でも逆に言えばそれはわれわれのいまの時代には欠けている部分であって、私にはそれがちょっと残念なことだと思っています。

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松島 今回映画のタイトルは「A Promise」となっています。原作の小説のタイトルは「Journey into the past」となっていますがなぜ「A Promise」というタイトルにされたのですか?

パトリス・ルコント うーん、それはね、実は少し迷ったところなんです。プロデューサーとそれから共同脚本家であるジェローム・トネールと話し合ったのですが、「過去への旅」というタイトルは、映画としてはちょっと文学的すぎるのではないか?という話になったんですね。まあ日本のタイトルはまた別の意味のものになっていることは知っていますけども。ともかくこの単数形で「A Promise」というタイトルにしようと自分でひらめいたときは「やった!」と思いましたね。やはり実際に彼女が2年後に私はあなたのものになると約束をするわけですけども、それだけではなくて「A Promise」には希望というものをすごく内包した言葉じゃないかと思っています。

松島 約束という言葉がひとつキーワードになっていますが、それともうひとつ過去と未来というものが重要なテーマになっているように感じました。「約束」は時制でいうと過去に結ばれ、現在を経て、未来に向けて守っていくものです。そうした時間的な流れのようなものを意識されているのでしょうか?

パトリス・ルコント まさに仰る通り。約束というのは将来を約束するわけですし、希望も未来に向けて抱くわけですからね。

松島 ところで、今回の映画は監督はフランス人、舞台はドイツ、役者は英国人で台詞は英語。このようなかたちにした意図はなんだったんですか?

パトリス・ルコント 加えてツヴァイクはオーストリア人でロケ地はベルギーです(笑)。それはともかく、ドイツが舞台の映画でフランス人の俳優にフランス語を話させるというのは考えられなかったからです。じつは告白すると最初はドイツ語でやろうとしていたんです。ドイツ語で書かれている小説で、ドイツが舞台の作品ですから。でも私はドイツ語がまったく分かりませんし、フランスの監督がドイツでロケをするというのも変だなという違和感もありました。そこで英語は世界の共通語ですからじゃあ英語にしようじゃないかというアイデアが出て、それはすぐに満場一致で決まりました。

松島 脚本はどうされたのですか?

パトリス・ルコント 私は英語をある程度理解できますが、英語で脚本を書くほどには理解していませんので、まずフランス語で書いて…

松島 それを翻訳して?

パトリス・ルコント そういうことです。それを共同脚本家のジェロームとふたりで、間違っていないかどうか入念にチェックをしながら進めていきました。これはとても大事な作業なんです。

松島 われわれも日本語で書いた記事を英語に翻訳しているのでその重要性は理解できます。

パトリス・ルコント じつは最初に頼んだイギリス人の翻訳家で自身も脚本家という人の訳はとても重苦しい感じで不満がありました。もちろん100年前の話ではありますけど、わたしはモダンなものにしたいと伝えていたのに、彼がすごく古臭く埃まみれの台詞にしてきちゃったんです(笑)。それでこんどは違う翻訳家に依頼したのですが、その人は字幕翻訳の経験もある人だったので、われわれのフランス語ヴァージョンと合致したものがあがってきました。

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松島 設定の重要な背景に第一次大戦というのがありますが、にもかかわらずこの映画には一発の銃弾も出てきません。戦闘シーンもなく、基本的にお屋敷の中での会話劇に徹していて、そこがとても面白いと思ったんです。

パトリス・ルコント ツヴァイクの原作がまさにその通りだったんです。戦争といいながらまったく戦争の描写が出てこない。わたしにとってはそれがちょうどよかったんです。

松島 なるほど。

パトリス・ルコント そうなんです。戦争が勃発していてもロットが考えていることはただひとつ。「フレドリックはどうしてるかしら?」とそのことばかり。戦争がまだ続行中であることを見せるためのシーンは、兵士募集のポスターと2人くらいの兵士とすれ違う場面のふたつくらいでしたね。息子のオットーが兵士の人形をバーッと倒しますよね?あれがもっとも激しい戦争シーンです(笑)。

松島 それと鐘の音が印象的でした。

パトリス・ルコント そう、あれはすごく大事です。それは戦争が始まる音で合図でもありますから。

松島 そのものを画面に出すことなく、モチーフやシンボルで表現するところがすごく印象に残りました。

パトリス・ルコント フレドリックがメキシコへ行って、その後戦争が勃発してからは、観ているわれわれはずっとロットに寄り添っているわけです。そのロットの頭の中には戦争はほとんど存在してないわけです。そこなんですね。まあ当時テレビがあったらテレビニュースを見ていたかもしれませんが(笑)

松島 フレドリックとロットがふたりでオペラを観にいくシーンがありますね?演目は「フィデリオ」だったのですが、あの演目には「苦悩からの解放」というテーマがあると思うのですが、あの場面でふたりがあのオペラを観るということには、なにかシンボリックな意味があったのでしょうか?

パトリス・ルコント じつはこのオペラのシーンはですね、どういうオペラにしようかと共同脚本家のジェロームと話したとき、全くオペラを知らないぼくに「フィデリオがいいだろう」と彼が進言してくれたんです。だからぼくにはまったく意図はなかったんですけど、あなたのおっしゃるとおりですよ、きっとおそらくジェロームはあなたと同じことを考えていたと思います。

松島 そして最後にナチスの行進がでてきます。そこもやはり暗示的で、ふたりのこの後はあまり幸福な時間は長く続かないのではないかと思ってしまうのですが?

パトリス・ルコント その通りです。その通りなんです!もちろん彼らが最後に抱擁するシーンでは雲から光が差し込んだというふうな、感情的には光が差し込んでいるんですが、あの帰還兵の行進でまた新たな嵐が到来することを予言しています。なのでこの二人にとっては心安らぐラストシーンにはなっていますが、映画全体のラストとしてはちょっと悲しげな希望のあまりない結末になっています。

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松島 今回この京都ヒストリカ国際映画祭というのは、歴史映画を集める国際映画祭ということで、世界的にもあまり類を見ないものだと思いますが、この映画祭については監督はどのように考えますか?

パトリス・ルコント 今回この京都ヒストリカ国際映画祭の招待をいただいたときには、私は拍手喝采しました。それはわたしの作品が出品されるからということではなく、この映画祭のコンセプトが素晴らしいと思ったからです。やはりただ漫然と映画祭をするのではなく何か個性をもってコンセプトを打ち出すというのは素晴らしいことだと思います。もちろんフランスにも映画祭はたくさんあるんですけど、そのなかでもいい映画祭というのはちゃんとしたパーソナリティを持った映画祭なんです。おそらく京都ヒストリカ国際映画祭というのはおそらく世界唯一の歴史劇映画祭だと思いますよ。でも京都ヒストリカ国際映画祭がサムライ映画に特化した映画祭じゃなくてよかった。それならぼくは呼ばれていなかっただろうからね。

松島 監督の映画にはサムライはさすがに出てこないですもんね(笑)。では、もし監督が京都で映画を撮るとしたらどんな映画を撮りたいですか?

パトリス・ルコント それはとてもいい質問であると同時に、とてもむずかしい質問ですね(笑)。でも京都で時代劇は取らないと思います。さっき言ったことと通じるんですけど。

松島 ああ、やはり京都でモダンな映画を?

パトリス・ルコント それはもうぜったい現代劇ですね。もちろんいますぐに考えられませんけど(笑)。映画監督でそういう風にテーマ与えられてすぐにアイデアが浮かんだら映画監督にとってこれほどうれしいことはないですけれど、決してそういうことは訪れません(笑)

松島 でもパトリス・ルコントが見た京都のいま、というのをすごく見たいですね。

パトリス・ルコント それにはもう少し京都のことを知らないとね。

松島 いつか機会があればぜひ。

パトリス・ルコント (日本語で)アリガトウゴザイマシタ

松島 こちらこそ、とても楽しいインタビューでした。

 

 

いかがだったでしょうか?日本語で質問し、フランス語に通訳してもらい、監督がフランス語で答えた内容をまた日本語に翻訳してもらい、それをぼくが日本語で記事にして、またそれを英語に翻訳する。はたしてパトリス・ルコントの意図がどこまで正確に英語圏の人に伝わっているのだろう?というのはとっても気になるところではあります。でも、楽しんでくれたらそれでいいかなとも思います。
ところで最後に。ぼくはこのインタビューの際にちょっとあまりにナイーブな内容だから訊けなかった質問がひとつだけありました。それはこの映画が現代のEUの問題とリンクして描かれているのではないか?という点です。
整理します。この映画のスタッフはフランス人でロケ地はベルギー、俳優は英国人で台詞は英語です。でも原作はオーストリア人がドイツ語で書いたドイツを舞台にした小説です。原作者ツヴァイクはナチスの台頭を機にイギリスやアメリカへと活動拠点を移した人でした。
これらの構図から見て取れるのは、フランス・ベルギー・英国というのは第一次大戦時には「連合国」側として、ドイツ・オーストリアを中心とした「同盟国」側と戦ったということです。これらの構図を反転する形で統合し、もどかしい愛の物語として描いた監督の意図には、じつはいまのヨーロッパに対するもどかしくも複雑な思いがあったのではないかとぼくは推測しています。
いま、パトリス・ルコント監督の祖国フランスでも右翼政党が台頭していますし、理想を掲げてスタートしたはずのEUはその理想が正しかったのか自問自答しているようにも見えます。第一次大戦からちょうど100年を迎えた年に製作されたこの「切実な愛の物語」は、叶わぬと思われる夢を追い求め続けることの大切さを描いているようにぼくは感じました。「A Promise」はもう二度と同じ悲劇は繰り返さない、という誓いでもあるのかもしれません。そしてそう考えると、パトリス・ルコントが語った「約束は希望でもある」という言葉の意味がより深く突き刺さってくるように思うのでした。

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パトリス・ルコント最新作「暮れ逢い」 京都シネマなど全国で12月20日からロードショー
公式ウェブサイト http://www.kure-ai.com/